第2章  地球と我が国の環境を巡る動向

3 酸性雨の問題

 酸性雨(pH5.6以下の雨)は、石油等の燃焼で生じた硫黄酸化物等が雨水に取り込まれて生じます。酸性雨は、土壌から植物に影響を及ぼすほか、湖沼や建物等広い範囲に影響を及ぼします。
  宮崎県内では、平成3年度から酸性雨の広域調査を実施しており、平成15年度における県内の平均値は、4.8であり、平成10〜12年度の全国平均と同じ水準で、現在際だった影響はでていません。しかし海外では、酸性雨の影響とみられる、森林が枯れたり、サケやマスなどの魚類が死んだりする等の事例が報告されています。

1990年代に韓国企業がおこなった大規模な皆伐の跡。永久凍土の上にあるシベリアの森林が伐採や火災で失われると、凍土が溶けてメタンガスが発生。その結果 、地球温暖化を加速させる。
撮影:カメラマン 伊藤孝司氏(URL:http://www.jca.apc.org/~earth/)

4 森林の減少

(1)世界の森林面積の推移と予想

 森林はバイオマス(生物体の現存量)の中では、地球上で最大の資源です。人間にとっても、昔から森林は食料の源であり、道具や家屋をつくるための原料であり、さらに、燃料として大切な資源の場所でした。しかし、森林はそれ以上に、水源涵養、災害防止、環境浄化などの大きな機能を持ち、生物のすみかとしての環境資源としての役割が大きいのです。その森林は、人類が農耕を開始して以来約1/3が無くなったといわれています。
  国連食糧農業機関(FAO)の推測では、あと100年もすれば地球上から大きな森林がすべて無くなる深刻な状況を警告しています。
 また、日本学術会議の食問題特別委員会による報告書(平成12年3月27日;URL http://www. scj.go.jp/kennkyuusya_saronn_r/17htm/1737z.html)では、次のとおり記載しています。
 各国の森林率はおしなべて激減しており、先進国のうち日本の森林率66%という数字は例外として、欧米諸国の森林率は20〜30%にまで落ち込み、開発途上国においては、なお急速に森林減少が進んでいます。タイ国の例では、このわずか30年の間に、森林率が26%へと半減しました。特に熱帯林の減少は著しく、世界の熱帯林は、1980〜1990年の10年間に、19億1千万haから17億5,600万haとなり、年平均1540万ha、年率0.8%のスピードで減少してい ます。


 熱帯林 の伐採の 理由は@ 熱帯地域 の人口の 急増によ る強制移 住で、不慣れな焼畑が行われたこと、A先進地域の木材輸出のための伐採、B先進国への輸出用の農・水・畜産物の生産のための伐採、C石油や鉱物資源の開発のための伐採などです。
 また森林の伐採により、水源涵養機能が失われ世界各地で洪水時の流出量 の増大、また逆に河川水量の極端な減少等の被害が大きくなっています。
 世界人口が90億人を超える21世紀半ばには、世界の森林面積はさらに現在の半分になる見込です。

(2)日本の森林状況(環境庁:1998)

 気候に恵まれた日本はその面 積約38万嘯フほとんどが森林であったと考えられます。しかし現在では人の影響をほとんど受けていない自然林(原生林に近い森林を指す)は北海道や東北地方、離島等を中心に約17.9%しか残っていません。日本の植生自然度図では、自然植生は植生自然度9(上図の深緑部分)で表されています。西日本では、自然林のほとんどが消失してしまっています。

4 世界の人口と食料問題

(1)人口増加と食料不足の懸念

 2003年の地球人口は63億人を数えており、先進国の人口が減少する傾向に比べて、アジア、アフリカを中心に人口が増え続け、2050年には約90億人にのぼると言われています。これらの人口を養うには、少なくとも約40億haの耕地が必要とされます(現在の15億haの2.7倍)。これらの状況により、将来にわたる人類の食料の確保が懸念されています。

(2)砂漠化等の土壌劣化

 耕地面積の拡大が必要である反面、他方で、過放牧、過耕作、薪炭材の過剰採取、地下水の過度の汲み上げによる塩類集積、灌漑の失敗などによる砂漠化等の土壌劣化が世界各地で深刻化しています。
  国連環境計画(UNEP)のまとめによると、現在、世界の砂漠は毎年6万平方キロメートルずつのスピードで広がっており、九州と四国とあわせた面 積とほぼ同じ土地が砂漠化していると言われています。(参考URL 砂漠化リアルタイムカウンター http://www.tottorisakyu.jp/kyou/real/)。

放し飼いにされた家畜は草だけでなく、木の芽や葉も食べてしまう。
アフリカサヘル地域(サハラ砂漠南緑部)
写真提供 緑のサヘル URL http://www.shonan.ne.jp/ ~gef20/desert/

(3)地球温暖化による収量の影響

 地球温暖化は現在の農産物の産地の移動をもたらし、それによる収量 の減少も懸念されています。日本学術会議の食問題特別委員会の報告書によると、世界的にはトウモロコシ、小麦の収量 は現在より減収となり我が国の水稲生産では、概して現在より中部、九州地方で減収、東北、北海道地方で増収となる推測をしています。
  また最近では、しばしば、温暖化の影響とみられる大雨や大干ばつ等の気候変動によって、農業生産が被害を受けています。

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(4)食に関する問題

 先ほどの日本学術会議の報告書では、食に関する次の問題も指摘しています。

1)食の肉食化

 食事の肉食化により一層大量の穀物生産が不可欠になっています。豚肉100kcal を得るのにトウモロコシ375kcal分、同じく牛肉で500kcal、鶏肉で150kcalが必要となります。牛を牧草だけで育てると、肉1sに対し30sの牧草が必要ということになり、いずれも広大な農地が必要となります。

牧場となった熱帯雨林伐採跡地、主に先進国向けの肉牛が放牧されています。
写真提供RFJ URL:http://www.rainforestjp.com/index.htm
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2)食の倫理の崩壊

 我が国における食物の可食部分の廃棄率は、高度経済成長下で急速に高まり、1965年で12.6%、1993年で28.8%に達しているとされています。この大量 消費・大量廃棄は、@比較的無駄の少ない家庭の食卓から外食の拡大へ、1.自給から経済力にまかせた輸入へ、2.食生活の中の倫理感の喪失、3.農業教育・食教育の後退といった事態の中で起こっています。さらに、現代の消費者は美味なものを要求しますが、そのニーズに応えて生産する側も収量 を犠牲にすることが多く、ここでもエネルギーの浪費が起こっています。また果 実、野菜なども旬がなくなるほど周年供給栽培技術、あるいは冷凍・貯蔵技術が発展しましたが、これにより大量 の石油エネルギーが消費されています。

3)食料等の自給

 主要国のカロリーベースでの自給率は、フランス140%、アメリカ110%、ドイツ90%、イギリス70%に対し、我が国は世界最低レベルで、近年は40%程度となっています(また、木材自給率は20.5%、水産物自給率は50%と落ち込んでいます)。  我が国は農・林・水産物ともに、工業の高成長下で食料自給率を著しく低下させ、現在の世界でもまれな食料等の資源輸入大国となっています。このことは、我が国が世界の農地開発や木材伐採による森林減少、海洋資源の枯渇、各種エネルギー資源の減少、ひいては大気汚染や水汚染、土壌流失といった問題に、大きく関わっていることを意味します。

(5)食料問題と人口問題の解決の必要性

 人口の増加は、資源の枯渇、地球環境の劣化を加速し、持続可能な地球の存立を脅かしています。現在の食料生産・供給システムのままでは、増加し続ける地球の人口に良質の食料を十分量 供給することができなくなる恐れがあります。
  従って、これから世界全体で人口・食料・環境の問題を統合的、根本的に考え直す必要があります。

6 水資源の問題

(1)水不足の深刻化

 地球は水の惑星と言われます。地球には140京立方メートル(けい 兆の一万倍。10の16乗)の水がありますが、利用可能な淡水は地球全体の水の0.8%にすぎません。その中で最も利用しやすい形態の河川、湖沼の水は全体の割合の0.008%です。
  現在世界で、人口の急増、産業の著しい発展によって水需要が増大しており、国連の報告書では、アジア、アフリカなど約30か国で水の絶対的な不足に悩んでいるとされ、今後の人口増加に伴い、その問題が拡大すると予測しています。また、ワールドウォッチ研究所レスター・ブラウン氏のレポートによると2025年には世界人口の半分40億人が水不足に悩まされるといいます。
  中国も水不足が深刻で、黄河は途中の取水により年間200日以上川の水が途絶え、海に達しない断流の日があると言われています。

中国湖北省武当山周辺の皆伐された山々(写 真:大阪産業大学人間環境学部都市環境学科 濱崎竜英氏撮影)皆伐により土壌流出、河川定量 水量の減少、洪水の派生等様々な問題を生んでいます。また伐採された樹木は日本向けの割り箸の用材になったりしています。

(2)水の紛争の恐れと日本への影響

 20世紀は領土紛争の時代で、21世紀は水紛争の時代になるといわれており、現にナイル川流域やガンジス川流域をはじめ水をめぐる国際紛争が各地で発生しています。
  幸い我が国は、降水量に恵まれ、将来においても水不足となる恐れは少ないと考えられますが、世界で起こっているこのような水問題は、日本にも深く関りがあります。
  それは、大量の水を使ってつくられる農産物をはじめ、工業原料、木材などの多くを、日本は世界中の国々から輸入しているからです。日本の経済や社会は、この“目に見えない大量 の水”の輸入によって成り立っていることを認識する必要があります。

(3)水循環の認識の必要性

 人間が利用する水(淡水)の主要な供給源は川です。自然環境とも調和して持続可能な発展を続けるためには、健全な水循環の維持・回復が必要です。水循環を考える基本的な単位 が河川およびその流域であり、個々の流域の水循環を健全化することが、地球規模の水循環の健全化につながるものと考えられています。

7 生物種の減少

 現在、地球上の生物の種類は約1,300万〜1,400万種と推定されています。そのうち、絶滅のおそれのある種が1万2,000種余りと非常に多く、また、種が絶滅する速度が増してきていることも大きな問題です。
  国際自然保護連盟の2003年の資料によると、1600年から現在までで762種の動植物が絶滅したとされていますが、このうち半数近くが20世紀になって絶滅したと考えられています。
  このような、過去のデータから、1800年代には4年間で1種の生物が絶滅し、1900年代には1年間で数種が絶滅したと考えられています。
  現在、種の絶滅速度については、1年間に100種程度絶滅するという説や、一日に数十種絶滅しているという学説もあります。  種の減少は、人間の経済活動の進展による開発等の様々な利用目的による自然植生の破壊と深い関係があります。   種の減少がこのまま進めば、ますます生き物の種類が減っていくことになり、また、その絶滅の速度は一層加速されます。
  1種の植物が絶滅すると、少なくともその植物とつながりのある動物10種から30種が絶滅するといわれており、動物も植物も含め、生態系としてまとまりのある自然を保護することが一層大切になります。
  地球上のあらゆる生物は人類も含め、複雑につながっています。このつながりのどこかが切れると生き物の世界のバランスが崩れ、絶滅する生物が増える可能性があります。そのことは当然人間にも影響が出てきます。



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